第14話 血塗られた城


「アイオンを捜せ!」
「邪魔立てするやつは容赦せん!」

 城内に突入した奴隷剣闘士たち  
 彼らの鬼気迫る闘いぶりに、ガヴェニア兵たちは圧倒されていた。それに加え、長槍を鮮やかに操る女騎士と、よく訓練された騎士の一団  。彼女らを前にして、もはや城を守ろうと立ちはだかるものはいなかった。

「ひいっ! 命だけは! どうか!」

(これが一国の城を守る兵士の姿か  ?)
 腰を抜かしてへたり込むか、あるいは逃げ惑う兵士たちを前にして、アルディは眉をひそめた。
 と、目の前にへたり込んだ兵士の首が飛んだ。剣を振ってその血を払い、剣闘士が横を走り抜けていく。
(無抵抗の者の命は取りたくないところだが……)
 血溜まりを飛び越え、アルディは剣闘士の後を追った。

 城内の回廊はすでに血の海となっていた。
 剣闘士たちは、城の兵士たちを殲滅せんとする勢いで、血刀を振るっていた。それはまさに、虐殺であった。
(彼らはそれほどまでに虐げられてきたのか  私は隣国の惨状も知らなかったのだな)

 やがて回廊を走っていたアルディは、三叉路に出た。
 狭くなっている通路を素早く見渡してから、後続の騎士たちに言った。
「二手に分かれよう。一刻も早くアイオンを見つけるんだ!」
「はっ!」

 一方、テールとレフィルはやや遅れて、回廊を進んでいた。
 赤く染まった通路に、惨殺された兵士たちの屍が続いているのを見ながら、レフィルは震える手で弓を握りしめて、テールの後についていく。

「これが戦いなんだね  
 レフィルの呟きを、テールは聞き逃さなかった。
 剣を手にして前方に注意を配ったまま、テールは言った。
「そうよ。そして戦いは一刻も早く終わらせるべきだわ。早くアイオンを討たないと」
 レフィルは震えを打ち消すように唇をかみ、頷いた。

  行き止まりみたいね」
 細くなった回廊の角を曲がると、その先は長く続いているものの、小さな窓が点々とあるのみで、扉は見当たらなかった。
 テールが引き返そうと後ろを向いたとき、レフィルが通路の先を指差した。
「あそこ、誰か倒れてる。仲間だよ! まだ生きてる!」
 テールの脇をすり抜けて、一目散に走り出す。
「待ってレフィル!」

 走って近づくと、テールも倒れている剣闘士の姿を確認することが出来た。驚異的な視力ですでにそれをみつけていたレフィルは、真っ直ぐにそこへ駆け寄って、叫んだ。
「大丈夫? しっかりして!」
 傷ついた体を揺すると、男は小さく呻き声をもらした。
「うっ……」
 男はわき腹を切られており、出血がひどかった。
「あまり動かしてはだめよ!」
 テールが追いついて、傍らに膝をつく。
「急所は外れているようね  
 傷を確かめていたテールの手に、暖かな光が集まってきた。
  お前は」
 彼は、先ほどテールを指差して非難した剣闘士だった。
 光はテールの手から傷口へと移り、やがて消えた。テールは剣闘士に優しく微笑みかけた。
「今、少し痛みをとったから」
「あぁ  
 剣闘士は、痛みが和らいだため、起き上がろうとした。が、テールは慌てて止めた。
「だめよまだ傷は開いているのよ! もう少し待って」
「すまない……」
 剣闘士は再び床に横たわった。が、右手だけゆっくりと上げて、回廊の行き止まりを指差した。
「あそこから、奴が逃げていった」
「えっ!?」
 隣で心配そうに覗き込んでいたレフィルが、丸い瞳をそちらに向ける。
「隠し扉だ。奴が数人の兵士だけ連れてここに来たのを追ってきたら、不覚にもこのザマだ。気を失ってる間に、奴らは消えていた。俺を乗り越えて戻っていったとは考えられん……おそらく、この先に  

「わかった!」
 レフィルが叫び、立ち上がった。
「待ってレフィル! 一人では危険よ! 誰か呼んできたほうがいいわ!」
 テールは慌てたが、レフィルは駆け出して、辺りの壁を探りながら言う。
「こうしてる間に逃げられちゃうよ! 一刻も早く戦いを終わらせなくちゃ!」
「でも  
「じゃあテールがその人の傷を早く治して、誰か呼んできて!   あった!」
 レフィルはまるで猟犬のように、獲物が逃げた先を嗅ぎ当てた。それは壁ではなく、床の絨毯をはがし、床板を一枚外したところにあった。地下への階段であった。
「気づかれないように後ろから射る。それなら得意だよ。大丈夫!」
 レフィルはそう言って片目をつぶると、足取りも軽やかに、地下へと消えて行った。


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